「タモッちゃんにはわからない。(中略)タモッちゃんは幸せだから」
本間は聞いた。「幸せ?」
郁美は頷いた。「うん。だって、小さいときから自動車が好きで、とっても好きで、学校だってそれに合わせて進学して、そいでもってお父さんの工場があって、そこで修理工になったら腕が良くてさ」
「最初っから良かったわけじゃないよ」と言いつつも、保は得意そうだった。
「そうよ。いっぱい努力したもんね。だけど、努力して良くなるってことは、やっぱり才能があったのよ。駄目な人は、どれだけ好きでも駄目だもん。タモッちゃんはさ、子供のときから好きなことがあって、その好きなことに才能があって、そいで、そこに進むことに邪魔が入らなくってさ。そういうの、いちばんの幸せじゃない」
火車
宮部 みゆき

「『今日の』ひとこと」と言いながら、最近仕事が忙しく帰宅が遅いので毎日どころか1日おきさえ更新できない状態です。
せめて最初の1ヶ月くらいは頑張ろうと思っていたんですが(涙)。
そんなわけで今日のひとことは、「仕事」に関する言葉。
宮部みゆき『火車』は私の中の宮部みゆきベスト1です。(いやでも『ステップファーザー・ステップ』も張るくらい好き……!)
何度も読み返していて、好きな場面はたくさんあるんですが、仕事についてとなるとこれかなあ、と。
本当に、これくらい幸せなことってないと思うんですよ。
好きなことを仕事にできて、しかもそれなりにその方面に才能があって満足のできる仕事ができてそれで食べていけるって。
お金持ちになんかならなくても、地位や名声なんか得なくても、ちっとも構わない。
まあこれはもともと職人肌の日本人だから思うことかもしれませんがロシアのゴーリキーだって「仕事が楽しみなら人生は極楽だ、仕事が義務なら人生は地獄だ」って言ってますしね(笑)。
私は……どうだろう。
もともと選んだ仕事はそれなりに興味があって志望したけど、だんだん自分がしたい仕事とずれてきてる気がしたり、何より能力があるとは思えず自己嫌悪に陥ることもしばしば。
だからこんな人が本当にうらやましくてしかたありません。
勇気を出せば人生はやりなおせるのかなあ。
でも人生をやりなおそうとして、人としての道を踏み外してしまったのが『火車』のヒロインなんでしょうね。
彼女のことを思う時、頭の中に、ぴかぴかに磨かれた換気扇、ガソリンの入った小瓶の冷たい空気が同時に頭に浮かびます。
これは、とても哀しい物語なのです。
模倣犯1
宮部 みゆき

模倣犯もいいけど、私はやっぱり『火車』派ですね。
ステップファザー・ステップ
宮部 みゆき

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